※本記事は公演の内部に触れていますので、公演を事前情報なしで見たい方はご注意ください。
素晴らしい・面白いコンテンツに出会うと「売れて欲しいけど売れて欲しくない」という相反する気持ちを抱くことがある。多くの人に触れてみて欲しいし、売れて幸せになって欲しいという気持ちとその一方でチケットが取りにくくなってしまうのではないかという邪な気持ちがせめぎ合う。
最近自分はダウ90000という劇団に対してそんな気持ちになっている。自分のダウ90000との出会いはコントライブ『夜衝』だ。厳密にはダウ90000の単独公演ではないのだが、テレビプロデューサーの佐久間宣行さんが紹介していたのを見かけたのが知ったきっかけだった。
非常に面白かったので、このライブに関わっていた劇団を調べ、直近のライブを探したところダウ90000が出演する『テアトロコント vol.52』に行き着く。そしてやっぱりこれも面白い。そんな流れでダウ90000の単独公演『旅館じゃないんだから』を見に行くことはある意味必然だった。
笑いの側面としてはボケとツッコミの言葉選びがすごくツボだ。ボケてやるといかにも肩肘を張っているというよりは、あくまで飄々と言葉が交わされていくのだがつい笑ってしまう言葉選びが好きなのである。
そしてもう一つ個人的には忽那文香さんの存在を挙げたい。本公演においては、1人だけ別の時間が流れているかのような独特の空気感がたまらなかった。コントの中でいいスパイスになっているというかある種飛び道具的な欠かせない存在だと思う。
今回印象に残っているボケを挙げると、つかみの信玄餅も笑ったし、エニタイムフィットネスの会員証やクレーンゲーム、レンタルなんもしない人も最高だった。
こうして振り返ってみると印象に残っているボケの3/4は忽那さんが絡んでいるのである。クレーンゲームで演者さんたちが笑ってしまうくだりは特に良かった。(ダウ90000に限らず、お笑いの演者さんが笑ってしまうシーンは本人たちも楽しんでいる感じが伝わってきて私の好物である。)
笑いの側面について書いてきたが、それ以外の要素についても触れておきたい。ただ笑わせるだけでない魅力がダウ90000には存在していると思う。今回の公演の内容を一言で表すとすれば、「レンタルビデオ店で働く若者と来店する客によるコメディ×青春群像劇」といった感じだったであろうか。
登場人物はほぼ全員がなんらかの恋愛関係にある・あった状態であるというある意味非日常的な空間である。にも関わらず特に主人公の恋愛の過程・記憶と、レンタルビデオにまつわるシチュエーション込みの思い出のくだりなんかはちょっとグッときてしまった。
恋愛において男は「名前を付けて保存」であり、女は「上書き保存」と言われることがあるが、それが表れていたと思うし、ある意味あるあるなのかもしれない。恋愛の酸いの部分を描きつつも、甘い部分を想起させるような瑞々しいラストシーンも素敵だった。観客も自身の体験と重ね合わせつつ色々と思い出し、また恋愛をしたいという気持ちにさせられていたのではないだろうか。
こうして書いてみると魅力を伝えきれない自分の筆力に絶望するばかりであるが、この記事をきっかけにダウ90000に興味を持たれた方が1人でもいたらこの上もない喜びだ。本公演のアーカイブは10月17日まで見ることができるようなので、是非ともご覧になっていただきたい。
これまで自分の中に好きなバンドはいくつも存在していたが、好きな劇団ができたのは初めての経験だ。バンドというのはある種刹那的というか、いつ活動休止や解散があってもおかしくないものだと思っているが、劇団も似たようなものなのではないかと推察している。だからこそ、次があるなどと思わずに1回1回の公演を存分に楽しんでいきたい。どうやら11月にも公演があるようなので、その日が今から楽しみだ。
最後になるが、ここまで読んでいただき、感謝の気持ちでいっぱいである。ダウ90000が好きならここもいいぞ的なオススメの劇団があれば是非是非教えていただきたい。
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