人には知られていない物語が世の中には確実に存在している。これはヒトという切り口のみでなく、ありふれたモノについてもあてはまる。
「砂糖」はいまや日本人なら口にしない日がないくらいにありふれた食品だ。しかし、砂糖が現在のようなありふれたモノになるまでには、先人の血と汗と涙があり、世界の歴史にも数多くの影響を与えてきたとしたらどうだろう。世界の見え方が変わってくるではないだろうか。
『砂糖の世界史』は今から20年ほど前の1996年に岩波ジュニア新書から出版され、著者の川北稔氏は歴史学者である。本書はタイトルの通り砂糖を切り口に世界史を俯瞰的にとらえ、解説した作品である。
「世界商品」という概念は本書を理解するにあたって欠かせない概念である。「世界商品」とは世界のどこでも価値のあるのモノのことで、今日でいえば石油や自動車などがこれに該当する。国力を考えた際には、世界商品を多く持っている国が貿易を通して儲けることができるため、各国は世界商品を生産しようとしたのである。そして、信じられないかもしれないが中世において砂糖も供給量の少なさも相まって世界商品の一つだったのだ。
砂糖を生産するには、サトウキビもしくはビートから生産するしかなかったが、当時はサトウキビから生産することが主だった。だが、御存じのとおりサトウキビは熱帯・亜熱帯地域でしか生成できない。そこで、当時のヨーロッパの国々はどうしたかというと北中米カリブ地域や南米を植民地化し、さらにそこへアフリカから奴隷を送り込み、プランテーションを作り大量生産させたのだ。
こうして砂糖の供給量が増えるにつれて、もともとは限られた上流階級にしか縁のなかった砂糖が一般庶民にも普及していく。本書では、特にイギリスの人々が砂糖をどのように生活の中で扱ってきたかということにも触れている。砂糖が希少だったころには紅茶に砂糖を入れたり派手な砂糖菓子を作りということは一部の上流階級の人にしかできなかった。一方で供給量が増えるにつれて、一般庶民も上流階級の人のマネをし、紅茶に砂糖を入れて飲み始める。この時時代は産業革命を迎えていた。そのため、労働者である一般庶民は時間がなく、朝や疲労がでてくる午後に砂糖を入れた紅茶を飲み、エネルギー源としていたことは歴史のつながりを感じられる話だ。
本書はジュニア新書ということで小中学生を意識して書かれていることもあり、非常に読みやすい作品になっている。本書を読んで、著者は砂糖の大量生産の陰に奴隷という負の側面があったことを知ってほしいという思いで執筆したのではないかと感じる。また、「砂糖」という切り口から歴史における物事のつながりや人々の生活にまで思いを馳せることができた。
最後に本書から引用して終わりたい。
歴史を学ぶということは、年代や事件や人名をたくさん覚え込むことではありません。いま私たちの生きている世界が、どのようにしてこんにちのような姿になってきたのかを、身近なところから考えてみることなのです。
本書は読む前後で物事の見方を変える一冊であり、著者の思いや考えが非常に伝わる作品であった。
コメント
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[…] 【書評】『砂糖の世界史』~人々の生活と奴隷の闇~ […]
[…] るだろう。そして、改めて歴史と旅の重要性を再認識することもできる。以前読んだ『砂糖の世界史』のような歴史に関する本をもっと読もうという気持ちにさせてくれ、海外旅行へ行 […]