【書評】数学嫌いに届け『ぼくと数学の旅に出よう 心理を追い求めた1万年の物語』

数学者 数学

本書『ぼくと数学の旅に出よう 心理を追い求めた1万年の物語』の著者ミカエル・ロネー氏はフランスの数学者で、数学の普及に熱心に努めている。彼は2013年からYoutubeチャンネルを開設し、そのチャンネル登録者数は2019年2月現在で33万人を超えている。また、2018年には数学の普及に努めた団体や個人に贈られるダランベール賞を受賞している。

そんな彼が執筆した本書は、副題にもあるように1万年以上前から現代までの数学の歴史を追いながら、その時々で重要・印象的な発見や出来事を紹介している。

この本も彼の普及活動の一環なのであろうか、数式の数も少なく前提知識が無い人にも読みやすい形式になっている。

数学の旅は何から始まるのかと思えば、幾何学操作および対称性から始まる。著者はそれを紀元前の出土品である土器に装飾された模様に見いだすのだ。現代では平面での幾何学操作は7種類であることが理論的に知られている。

そして、筆者はルーブル美術館内内にある土器の模様にはこれらの内何種類見られるのかということを調べた。その結果はなんとすべての幾何学操作の種類が存在しているというのである。つまり、はるか昔の段階で、人類はすべての幾何学操作を発見していたということになるのだ。この始まりは私にとって予想外で一気に本書の世界に引き込まれてしまった。

個人的に印象に残っているエピソードが正二十面体のエピソードだ。話はフランスの映画館のデザインから始まる。フランスの映画館、ラ・ジェオードにある球は三角形の集まりとして近似的に作られている。三角形が正六角形状に埋め尽くされることで球を形成しているが、実はよく見ると一部正五角形となっている部分が存在する。この正五角形になっている部分は12か所存在するということがわかっている。このことは2000年以上前にギリシャの数学者によって発見されていたのだ。

その発見とは、正多面体である。その中のひとつが正二十面体である。正二十面体の面を三角形で分割し、それを膨らまして球体に近づけることを考える。どんどん分割する三角形の数を増やせば、球体に近づくわけだが、これがラ・ジェオードの正体である。つまり、三角形を用いて近似的に球体を作成しようとすると、正二十面体を元につくることになる。そのため、正二十面体の頂点の数である12個か所はどうしても正五角形になってしまうというわけである。

これと同様の発想で考えられたのがサッカーボールである。サッカーボールは20個の六角形と12個の五角形からなっている。球体に近づけるアプローチとして正二十面体の頂点の部分を切り落としたわけだ。私はこの身近なところに潜んでいた数学のつながりに思わずゾクッと来てしまった。文章では限界があると思うので、サッカーボールのくだりについてはぜひ下の動画を見て欲しい。

本記事では触れなかったが、他にもなぜ幾何学や方程式が必要とされ発展していったかなど学校の授業ではあまり触れられない歴史的背景に触れられており、読んでいて非常に勉強になった。意外と意識していないだけで、身の回りに数学が溢れているのかということを痛感するのと同時に、本書で述べられているような過去からの知のつながりの恩恵を享受しているということを再認識することができた。

本書はプロローグとして、数学に苦手意識を持つ女性とのエピソードから始まる。筆者が普及活動として数学をテーマにした出し物をしていた。女性はそれを楽しんでいたが、筆者に数学だと明かされるとこんなセリフを述べる。「いまのは本当の数学じゃないでしょ……。だって最後までちゃんとわかったもの」と。数学に苦手意識のある人こそぜひこの本を読んでみて欲しい。この女性のように本物の数学を楽しめると私は信じている。

最後までお読みいただきありがとうございました。皆さんに素敵な本との出会いがありますように。

 

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