【書評】『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』~かわいい子には旅をさせよ~

小説

「また、必ず会おう」と誰もが言った。

今風に言えば、このタイトルの時点でエモい香りがプンプンするが、読んでみたら期待を裏切らなかった。

本書『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』は小説ではあるが、自己啓発的な側面も持っている作品だ。著者は喜多川泰氏で、塾の経営や執筆を生業にしている。

本書の主人公の和也は熊本在住の高校生だが、ひょんな嘘をきっかけにディズニーランドに1人で行くことになる。そして、その帰り道に事件が発生する。和也は帰りの飛行機に乗り遅れ、無一文の状態で東京に取り残されてしまう。和也はヒッチハイクで熊本まで帰ることを決意する。そんな彼の運命は如何に。

おおまかなあらすじはこのような内容だ。和也は次々と様々な人にお世話になり、それをきっかけに様々な学びを得ていく。そして訪れる恩人との別れ。それがいちいちエモーショナルなのだ。

始めに空港で出会った土産物の販売員のおばちゃんは家族/親の大切さ、そして居候の心得を教えてくれる。居候の心得とは掃除をすることだ。とにかくピカピカにする。居候をさせてくれるお返しの意味もあるが、他者貢献感を味会うことが結果として自分のためになるのだ。

たしかに何もしていないとそこにいるのが申し訳なくなり、居心地も悪くなる。だが、そこで逆に強調されるのが家族のありがたみである。自分の親だけは何もしなくても許容してくれる可能性のある唯一の存在である。他者貢献と親の大切さを読者に気付かせてくれるのだ。

熊本までの道のりのかなりを乗せてくれたトラック運転手とのエピソードも非常に印象的だ。トラック運転手は自分にあったメガネをかけること、つまり自分で物事を取捨選択し、決断することの大切さを和也に説く。

このエピソードが私にとっては一番グッときた。自分にあったメガネをかけるというのは、現代社会において、非常に難易度の高い行為であると私は考えている。インターネットやSNSをとおして、多くの価値観が無意識のうちに押し付けられ、刷り込まれていくからだ。

そうしたこともあって、自分で物事を決断しているようでも、実は他人のメガネをかけているのではないかという気持ちになる。本当に自分で決断行動していると言い切れるのか疑わしいのだ。『メモの魔力』で徹底した自己分析の重要性が説かれているが、それがこのエピソードによって少しわかった気がするのだ。

ライフネット生命の創業者で、現APU学長の出口治明氏は島崎藤村の言葉を引用しつつ、「人が成長するには、人・本・旅の3つしかない」と主張しているが、本書の主人公和也はまさに人と旅をとおして多くの学びを得ている。

フィクションであるため、出来過ぎな面は当然あるが、改めて人と旅からの学びを意識するきっかけとなった。私は実は恥ずかしながら海外旅行に行ったことがない。海外へ旅行する意欲をあおってくれたという意味でも良い本であった。

喜多川氏の作品を読むのは実は初めてではなく、『上京物語』を読んだことがある。この作品も非常にグッとくる良い本なので、気になった方は本書と合わせて手に取ってみて欲しい。


最後までお読みいただきありがとうございました。あなたに素敵な本との出会いがありますように。

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