【書評】『科学史ひらめき図鑑』~先人のひらめきに学ぶ~

ひらめき 伝記・自叙伝

本書『科学史ひらめき図鑑』は科学史、特に歴史的な発見や発明が生まれたきっかけに注目し、それをビジネスに応用してしまおうという本だ。登場するのはアインシュタインやダーウィンなどおなじみの科学者に加えて、ワットやグーテンベルクといった発明家、トーバルズやバーナーズ=リーといったプログラマーまで非常に多彩な人物の業績が紹介されている。

本書の構成としてはまず科学者の概要があり、ひらめきが生まれる前の状況説明、そしてひらめきの瞬間にまつわるエピソードが続き、ひらめき後の状況説明と来て、最後にビジネスに応用できそうな教訓で締めるという構成になっている。これが70人分も続くため非常に読みごたえがあり、登場人物も多様なため、飽きずに読むことができる。

私は大学院まで物理学を学んだ人間なので、物理学や数学にまつわる発見にはある程度知見があるつもりでいた。しかし、いざ読んでみると歴史的な業績が生まれたきっかけとなるひらめきやその後の世界の変わり方までは知らないことが多く、非常にためになった。また、ハレー彗星で有名なハレーが統計データに基づく保険料の計算方法を提唱していたりなど、既知の偉人の異なる業績に触れることができたので、非常によかった。

物理や数学以外の分野の科学者にはあまりなじみのないこともあり、印象的なエピソードに映ることが多かった。とくにピロリ菌の発見者である、バリー・マーシャルのエピソードは強烈だった。

19世紀ごろ、胃の不調を訴える患者から細菌が検出されたが、その細菌が不調の原因だとは考えられていなかった。当時胃酸の中で生きられる細菌がいるとはだれも考えられていなかったためである。しかし、マーシャルは胃潰瘍となっている患者から必ずこの最近が見つかることから、この細菌が原因であると考えた。

細菌が病気の原因であることを確かめるためには下記の「コッホの4原則」を満たす必要がある。

1.その病気の全症例にその細菌が見つかる
2.その細菌を体外で培養できる
3.その培養した細菌を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせる
4.その動物から細菌を分離して培養できる

1と2を満たすことにマーシャルは成功するが、ラットなどの実験動物を用いても中々3を満たすことができない。そこでマーシャルは取った行動はなんと自らピロリ菌が培養された液を飲み、自らを実験台としたのだ。

案の定マーシャルは胃痛・嘔吐に苦しみ、検査をしたところ急性胃炎が発症していた。そして同じ細菌を分離・培養に成功し、コッホの原則の3と4を満たすことができた。こうしてピロリ菌が発見され、胃炎の原因として特定されたのだ。この自らを実験台にしてしまったというエピソードが自分にとっては強烈で、非常に印象に残っている。

 

また、ダーウィンのエピソードも読書好きの自分としては非常に印象に残るエピソードだった。そのエピソードを一言で言ってしまえば、進化論につながるひらめきのきっかけがダーウィンにとって他分野の書物であるマルサスの『人口論』を読んでいる時だったというものだ。

異なる分野が思わぬところでつながる瞬間は読書をしている時にまれに訪れる至福の瞬間の1つだと思うし、だからこそ様々なジャンル・分野の本を読むことが自分は好きなのである。ダーウィンのエピソードは読書の大切さを再認識させてくれたのだ。

 

本書は図や絵も多く、同じ構成が繰り返されていることもあり、非常に読みやすく仕上がっている。どうしても最後の締めにあるビジネスへの応用の部分は取ってつけた感が否めないが、それを差し引いても科学史の読み物としてよくまとまっており、サイエンスにあまり親しみのない人でも手に取りやすい1冊となっている。難しい数式なども皆無のため、科学に苦手意識のある人こそぜひ一読してみて欲しい。

最後までお読みいただきありがとうございました。あなたに素敵な本との出会いがありますように。

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