【書評】『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~』

美意識 新書

概要

本書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』はコンサル出身の山口周さんが、経営における「美意識」の役割について論じた本です。まずは本書に出てくる3つの概念、「クラフト」・「サイエンス」・「アート」を整理しておきましょう。「クラフト」は経験に基づく知識であり、「サイエンス」は論理を表します。そして「アート」ですが、これは個人の持つ美意識や価値観、倫理観を表します。本書の主張をあえて一言でまとめてしまえば、”昨今の変化が激しい時代には「クラフト」や「サイエンス」のみでなく、「アート」が重要になってくるよ“ということです。

なぜ「アート」が重要なのか

もう少し詳しく内容を知りたい方のために、私の中で特に印象に残った、「アート」が重要になってくる理由について書いておきます。前提として、これまでは経営において「サイエンス」の要素が強かったということを抑えておく必要があります。

その上で、「アート」が重要になる理由ですが、まず1つ目は変化の激しい時代には論理で考えるのに必要な変数が多くなってしまうということです。不確実で流れの速い時代において「サイエンス」を重視しすぎると、そもそも答えが出せなかったり、出せたとしても潮流に乗れなかったりしてしまいます。

そして2つ目は「サイエンス」で出した解答のコモディティ化です。理論上論理から解答を出そうとすると、条件が同じだった場合、誰もが同じ解答に行きついてしまいます。そしてこれは企業が行いたい他社との差別化に遠のく行為となってしまいます。

最後に3つ目は未知のモノ・コトに遭遇した際の対応です。現在は技術の進歩が激しく、法整備が追いつかない状況です。こうした状況のなか、例えばAIを扱う際に企業の倫理観が問われてきます。そこで「アート」が重要になるわけです。

印象に残った「アート」が重要になる理由を挙げてみましたが、本書を読みながら非常に説得力を感じました。

「アート」の次に来るものは何か

本書では「アート」の重要性を指摘している一方で、3つの要素それぞれの必要性についても指摘していますが、それでもあえて「アート」の次に重要になるものは何かを考えてみました。結論から書くと「クラフト」が再度重要になると考えます。

その根拠としてはブームやトレンドは振り子のように戻ったり、円環のように1周したりすることです。例えば現在シェアリングエコノミーがトレンドになっています。元々物が少ない時代にはシェアを行っていたのが、豊かになるにつれて所有をするようになり、物が余りだしたことによってシェアに戻るという振り子のような変遷です。勿論現在は物のみでなく時間や場所をシェアするといった新たな要素は加わっているものの、ブームやトレンドにおける一つのパターンを満たしていると考えます。

これを踏まえて「アート」の次は「クラフト」が来ると考えます。「アート」を用いた意思決定においても当然失敗することはあるわけですが、経験を積むことでより精度が上がっていきます。そのため、「アート」に秀でた人が積んだ経験が意思決定において重宝される時代が来るのではないかと考えます。そしてその経験が新たに論理化されて、「サイエンス」に反映され「サイエンス」が重視される時代が再び来るのではないかとも考えます。つまりは「アート」の次には「クラフト」が来るが、結局円環のように重視されるものも一周するのではないかという結論です。

終わりに

ここまでの文章を特に本書を見返すこともなく書くことができるぐらい、主張がわかりやすく論理的に展開されている著作でした。また、本文中では経済や法律、哲学、サイエンスといった様々な学問領域からの知見を活かした著述も見られ作者の山口さんの知的能力の高さもよくわかる文章でした。是非皆さんも「アート」の次に何が来るのかを考えてみてください。

コメント

  1. […] また藤田さんはこの時の経験から信念を曲げないことを再誓するのですが、山口さんの美意識に関する本を読んでいた私としては、やはり経営において自分なりの価値観や信念は重要な […]

  2. […] また、今年から書き始めたブログの最初の記事もこの本に関する記事であり、非常に思い出深い一冊でもあります。 […]