【感想】『転職の思考法』~凡人に救いの手を差し伸べる良書~

転職の思考法 キャリア

「このまま今の会社にいていいのか」

本書のタイトルの一部であるこのフレーズは企業勤めをしている人ならば一度は考えたことのあるテーマなのではないだろうか。しかもこのテーマについて考えると非常に悩むことになる。転職をするのが怖いからだ。それはなぜか。本書の言葉を借りよう。

多くの人が、転職に恐怖を感じるのは、何かを手にするからではない。人生で初めて何かを手放すことになるからだ。しかも自分の意思で

確かに転職は自分の意思で何かを手放すことになる。これまでの人生において、大学受験や就職活動といった人生の転換点となりうる出来事は、周りと同じタイミングで発生し、決断を迫られた。一見能動的なようでいて実は受動的に決断してきたのだ。

しかし、転職は違う。必ずしも転職はする必要がないし、誰かと同時に行うわけでもない。だから引用した言葉は非常に的を得ているように感じる。転職は真の意味で初めて、しかも自分の意思で手放すという決断を迫られる。だから怖いのだ。

そんな転職を行う際に重要な考え方を本書『転職の思考法』はわかりやすく示してくれている。形式としてはベストセラーとなった『嫌われる勇気』と同様の、悩める主人公と賢人の対話/ストーリー形式になっている。この点は賛否が分かれるところかもしれないが、要所でまとめも挿入されており、読みやすさとわかりやすさが両立していると思う。

転職を考える際の鍵として本書では一貫して「マーケットバリュー」を高める重要性を説いている。マーケットバリューは技術資産、人的資産、業界の生産性の3つの要素の掛け算で定義される。そして、これを高めるにはどの場所にいるか(ポジショニング)が重要であり、凡人でも思考法さえ身に付ければ適切なポジショニングができる。ポジションの取り方、つまりは業界・企業の選ぶ際の考え方について気になった方はぜひ本書を手に取ってみて欲しい。

私はタイトルに「凡人に救いの手を差し伸べる」と書いた。前述したポジショニングについての考え方が書かれていることが理由のひとつだが、本書で語られている「to do」型と「being」型に関する話に依るところが大きい。

「好きなことを仕事にする」というフレーズは現代を生きる人なら一度は耳にしたことがあるだろう。賛否を巻き起こし、苦悩を引き起こすある意味悪魔の言葉だ。だが、本書の「to do」型と「being」型の考え方を知れば、少しは悩みから解放されるかもしれない。

本書によれば人間は2種類に分けられる。それが先程から述べている「to do」型と「being」型だ。「to do」型は明確な夢や目標があり、何をするかで物事を考える。一方で「being」型はどんな人でありたいか、どんな状態でありたいかを重視する。そして、99%の人間は「being」型であり、それゆえ心からやりたいことはほとんどの人間には存在しないということを本書は指摘している。

では「being」型の人間はどのように考え、行動すればよいのだろうか。好きなことは見つけられないのだろうか。これらの疑問に関する答えを本書は用意してくれている。だから私はタイトルに「凡人に救いの手を差し伸べる」と書いたのだ。気になった方はぜひ本書を読んでみて欲しい。

これまでよく語られてきた考え方やベストセラーになった本に書かれている内容の大多数は「to do」型の人によるものであり、「being」型の人間は悩み苦しんできた。本書は私を含む凡人かつ「being」型である人間にとっての道しるべであり、一度は読むべきバイブルのような存在になるだろう。

コメント